研究

「光計測技術の革新による新しい科学・産業の創出

歴史が証明してきた通り、新しい計測法が新しい科学を生み出すことは自然科学において本質的で普遍的な関係です。井手口研究室では、次世代の科学を創出するために新しい計測法の研究を行い、それらの手法を用いた基礎科学の研究にも取り組んでいます。さらに、新たな技術を産業界に展開することにも力を注いでいます。以下に現在進めている研究テーマを紹介します。

超短パルスレーザーによる超高速分光

近年、超短パルス光の振幅や位相を自在に操る技術が飛躍的に進展してきました。代表的な例として、光周波数コム(2005年)やアト秒パルス光(2023年)の発生技術がノーベル物理学賞の対象となりました。我々は、超短パルス光の特性を活かした新しい分光技術の開発に取り組んでいます。具体的には、光周波数コムを2台用いたデュアルコム分光や、高繰り返し単一パルス分光であるタイムストレッチ分光など、最先端の技術を開発し、世界最高速の分光技術を実現してきました。また、光ファイバーや高速光変調などの通信技術や非線形光学技術を巧みに応用した高性能計測法の研究も推進しています。これらの独自技術を化学や生物学の分野に展開し、機能性材料や生体試料の計測にも活用しています。

ラベルフリー顕微鏡と生命科学

細胞や組織などの生体試料の顕微観察は、生命科学における基礎的な実験手法の一つです。特定の生体分子を観察するためには、染色した試料を用いた蛍光イメージングが一般的に用いられますが、染色にはさまざまな課題が伴います。近年、蛍光イメージングの欠点を補う非染色のラベルフリーイメージング技術が飛躍的に発展してきました。我々は、生体分子の分子振動を利用した化学イメージングの先端手法や、光散乱の特性を活用した散乱顕微鏡の開発に取り組んでいます。例えば、世界最高の空間分解能を持つ赤外顕微鏡を開発し、細菌内部の微細構造を分子振動イメージングで可視化することに成功しました。また、開発した独自の顕微イメージング技術を活用し、細胞内熱現象の解明(薬学系研究科との共同研究)など、生物物理学における基礎研究も進めています。

量子光計測

近年、量子コンピュータに代表される、量子力学の原理に基づく次世代技術の研究が注目を集めています。分光やイメージングなどの光計測分野においても、量子技術による性能向上を目指した研究が進展しています。我々は、量子光学を活用することで、新たな機能や卓越した性能を備えた光計測技術の開発に取り組んでいます。

コンピュテーショナル光計測

コンピュテーショナルパワーの格段の進歩を背景に、さまざまな情報科学の技術を活用したデータ解析手法が開発されています。光計測の分野でも、これらの技術の導入が進んでいます。我々は、光計測の光学ハードウェアに工夫を加え、情報科学の技術を融合させることで、計測性能の向上や計測の簡便化を実現するコンピュテーショナル光計測技術の開発に取り組んでいます。具体的には、圧縮センシングや機械学習を活用した分光技術やイメージング技術の開発(情報理工学系研究科との共同研究)を行っています。

レーザー加工の物理学

レーザーアブレーションは、フェムト秒からミリ秒に及ぶ広い時間スケールで様々なプロセスが絡み合う非平衡開放系の複雑な現象です。私たちは、独自の光測定技術を用いて、複雑な加工現象の根底にある学理を追求する研究を行っています。


Photothermal Webinarシリーズでの講演動画(2023年10月)です。

研究室で開発した計測技術の紹介(2021年7月)を行った動画です。